—— いまディスカバリーでどういう役割をされていますか?
子どもたちの運動、運動を中心とした遊びをサポートするディスカバリースポーツの責任者をさせていただいております。具体的には体を動かす遊びと、小学校で取り組む鉄棒や跳び箱などの体育の授業を練習する(先取り体育)がメインになっています。
初めてやることに対する恐怖心で取り組めない自閉症の子どもたちがいるんですが、ここで練習することでそのような恐怖心を克服したり、学校で出来なかったことを練習して苦手意識をなくしていくことを目的にした取り組みを行っています。
—— ドッジボールなど広いスペースが必要な運動はどこでやるのですか?
はい。公共の体育館やスポーツ施設を借りたり、ディスカバリーの取り組みに共感していただいている地域の高校の体育館をご厚意で使わせていただいてます。
—— 療育の中で一番大切にしていることは何ですか?
運動を通してコミュニケーション力を高めることが一番大切だと思っています。体力や筋力というのは、運動をやっていれば自然と身に付くものなんですよ。だから運動面以外の「コミュニケーション能力」「探究心」「統率力」などを重視しています。
できないと思っている子ども達が、なぜできないのか?を考える力が「探究心」です。こうやったらできるんじゃないかな?という考えを伸ばしていけるようにサポートします。 「統率力」というのはチームをまとめるような力ですね。運動はひとりでなく多人数でやるようなものが多いのですが、スポーツを通して高学年が低学年に教えてあげたり、チームを引っ張っていくリーダーシップが自然と身について欲しいと考えています。それらは今後、社会に出たときに必ず活きてくるからです。
—— ディスカバリーで仕事をする前はどういうお仕事をされていたのですか?
大阪市内のスポーツジムでインストラクターとしてピラティスを教えていました。ピラティスというのは機能性を高めていくエクササイズです。人間の体の動かし方というのは幼少期に他人の動きを見て真似したりすることで無意識に身につけているものですが、実は科学的、物理的に正しい動かし方や筋肉の使い方があるんですよ。それが正しくできると身体の機能が上がります。機能が上がると、身体の悩み、肩こりや腰痛などが改善されていきます。機能美という言葉がありますが、正しい身体の使い方を意識すると、動作もだんだん美しくなっていき、心も自然に整っていきます。 逆に言うと、姿勢が悪かったり、雑な身体の動かし方をしていることが、体の悩みや心の不調の原因だったりするんです。
—— 過去の経験が、いまの仕事にどのように活かされていますか?
福祉業界は未経験で子どもと接する仕事も初めてでしたが、身体を動かすことが心身の健康につながるというのは大人も子どもも同じだと思っています。運動を通して出来ることはたくさんあって、先ほど言ったような機能面を高めていくことだけでなく、心に問題を抱えていても運動をすることで前向きになれる力が養われていきます。ピラティスを教えていた過去の経験が、いまの療育にも活かされていますね。
—— 教える対象が大人から子どもに変わったことで戸惑いはなかったですか?
最初は苦手というか、子ども達に対して、どう対処していいか分からないことがありました。インストラクターをしていたときは、大人が対象だったので、教えるときのマナーなど「気遣い」することが普通でした。療育で子どもたちと接するときは、そのような建前の「気遣い」は要らないんです。子どもたちにとって嫌なものは嫌、楽しいものは楽しい。その気持ちに対してまっすぐに応えていくことが私の役割です。本音で素直になって子ども達と接することが大切なんだということに気づいてから、あれこれ悩むことがなくなりましたね。
—— 何かエピソードを一つ教えてください。
跳び箱が飛べないっていうお子さんがいて、いつも体育の授業では片隅で見学していた子でした。筋力や機能に問題があったわけではなくて、心の中に持っていた恐怖心で跳べなかったんです。彼をみたときにそれが分かったので、一段、また一段と跳べるように、最後は跳び箱が好きになるまで、サポートしていきました。
—— 一段も跳べなかった跳び箱を跳べるようになるまで具体的にどのようなことをしたのですか?
まず仲間が跳んでいるところを見て「楽しそう」と思ってもらえるようにします。そして、いざ挑戦するとなったとき、自分が何より大切にしていることは「失敗させない」ということです。失敗から学ぶということもありますが、療育においては基本的に失敗はさせません。失敗しないところまでレベルをどんどん下げて、必ず成功するようにサポートしていきます。レベルを下げているということが分からないようにも工夫します。あからさまにレベルを下げているということが伝わってしまったら、彼らも傷ついてしまうので。
—— 成功するようになったら、子どもたちにどのような変化がありますか?
面白いことに、ひとつ苦手なものが克服できたら、別の苦手なものに挑戦しようとするんです。跳び箱が跳べるようになったら、次は鉄棒というように…。どんどん影響していくんですね。出来たときの子どもたちの顔がそれまでと一変するんです。見ていて感動しますよ。子ども達の親御さんから嬉しい報告をいただくこともあります。子どもの顔つきが変わってきた。表情が豊かになってきたと言われると、この仕事をやって良かったと心から思いますね。
—— 最後にディスカバリープロジェクトに入社して、いま感じていることを聞かせてください。
もともと自分は自然の近い所で働きたいという思いがありました。入社して猪名川町に引っ越してきて、この豊かな自然環境の中で働けることに満足しています。ディスカバリーでは福祉事業以外に農業(有機ニンニク栽培)にもチャレンジしているのですが、できた商品にシール貼ったりとか、そういう泥臭い仕事も1人でコツコツやっている社長を見て、自分もいろいろ感じることが多いですね。「おしゃれな福祉」を合言葉にしている会社ですが、見栄えの良い、映える部分だけに力を入れるのではなく、見えないところでも気持ちをこめて仕事することが大切だと日々感じています。