—— いまディスカバリーでどういう役割をされていますか?
はい。ディスカバリークラフトで児童発達支援管理責任者として働かせていただいております。
—— 児童発達支援管理責任者とはどのような立場なのですか?
利用するお子さんの成長に合わせた個別支援計画書を作成したり、現場のリーダー的な役割を担っています。 国家資格なのですが、私は保育士として実務経験があり、所定の研修を受講することで資格を得ることができました。
—— 以前はどのような仕事をされていたのですか?
短大の保育科を卒業して26年間、私立の幼稚園で働いていました。うち二年は園長代理として責任者も勤めさせていただきました。子どもとのつながり、保護者の方とのつながり、職員間のつながり、行政機関とのつながり、それらの繋がりの中で信頼関係を築くことの大切さを学ばせていただきました。人と人とのつながりが自分を大きくしてくれたと思っています。
—— 園長代理まで経験されたということですが、キャリアをスタートした当初からお仕事は順調だったのですか?
いえいえ、とんでもないです。仕事を始めた当初は失敗ばかりでした(笑)。絵を描くことや折り紙を作ること、音楽や体育、スイミング…それらを子ども達に伝える技術が未熟で、知識も不足していたので、子ども達との信頼関係がうまく築くことができず、毎日落ち込んでいました。
—— 転機となった出来事があったのでしょうか
はい、ありました。読書研修というのがありまして、夏休み期間に職員全員が一冊本を読んで思ったことや感じたことをプレゼンテーションする研修なのですが、その中で一冊の本と出会ったのが自分を大きく変える転機になりました。「ママ、ひとりでするのを手伝ってね! 」というモンテッソーリ教育について書かれた本です。 お母さんが、子どもの手をレンジで温めたタオルでふいてあげようとする。でも子どもは自分で蛇口をひねって水を出して自分で手を洗おうとしている、自分で水の感触を感じようとしている。教えなくても、子ども自身が経験したがっていることがある。親や保育士はそれを気づいて見つめて、子どもの創造性を援助するのが役割だという考え方です。保育士になって一年目、「自分がやらなきゃ、なんとかしなきゃ」とあせって空回りしていた自分にとって、この本に出会ったことは目からウロコが落ちたような体験でした。
—— 1才から6才までの幼児教育期間に一番必要なことは何だと思われますか
発見する、感じる、五感を働かせる。そのような「直接的な体験」が生育にとって一番大切なことだと思います。子どもにとって最初は全てが混沌とした無秩序な世界なのですが、その後、自らが体験して知ることによって、無秩序に規格や秩序のようなものがうまれていきます。そして混沌とした世界が分類されることで、様々な違いに気が付くようになっていきます。
—— いまの仕事に転職することになった経緯を教えてください。
生き辛さを抱えた子どもが大人になったとき、社会に彼らの居場所がない、自分が出来ることが何かないだろうか?…保育士の仕事をしながら、そんなことをずっと考えていました。 私の娘は小学校の頃に発達に遅れがあること、学習障害や対人関係が難しいかもしれないと言われていたのですが、中学校に入り環境が大きく変わったことで、不登校になってしまいました。当時の娘は「死にたい」という言葉も口にするほど荒れていました。離婚して母子家庭でしたので、私が仕事に出ている間、彼女を一人にさせていました。家に帰宅すると、部屋の中が物で散乱していることも度々でした。ストレスでものに当たり散らしていたんですね。
—— そんなとき母として、どのように娘さんに接していたのですか?
口で何を言っても反発するので「衣食住」の基本を安定させることだけを心がけていました。娘が過ごしやすい環境を整えてあげることで、何か伝わってほしいという思いでした。それを続けているうちに、娘から「ありがとう」とか「ごめんね」という言葉が聞けるようになっていきました。自分のために食事を作ってくれている、掃除をして部屋を整えてくれている、ということが少しずつ分かってもらえたのかなと思います。
—— ディスカバリーとの出会いは折り込みチラシだったそうですね
そうなんです!ポストの中に入っていた一枚のチラシに書かれていた「新しい福祉」という言葉が目に飛び込んできて、運命だと思いました。生き辛さを抱えた子ども達のために何かできることはないかと思っていたところだったので、すぐ求人に応募しました。
—— 採用された今の仕事内容を教えてください。
SST(ソーシャルスキルトレーニング)という周りを見る力を養うプログラムを通して、子ども達が状況に応じて自分で考えて行動できるようにサポートをしています。また知覚や書き取りに弱いところがある子ども達には、遊びながら楽しく情報を把握できるようなプログラムを行っています。
—— 保護者の方々はディスカバリーに何を期待されているのでしょう。
まず子ども達の居場所として落ち着ける環境であること。子ども達の成長にとって良い人材がそろっていること。子ども達の特徴・特技が療育の中で活かされるようなプログラムがあること。学校などで悲しい思いをしている子ども達の癒しの場であること。そこから回復して集団生活に戻れるようにサポートしていく環境があること。…そのようなことがディスカバリーに求められているのだと思います。
—— 杉本さん自身は療育において、どのようなことに重きをおいて取り組まれていますか。
子ども達には「いまのままで大丈夫だよ、あなたのことを理解しているよ」というメッセージが伝わるように接しています。自己肯定感が低く自信を失っているお子さんが多いので、とにかく否定的な言葉を使わないように意識します。もし間違ったことをしてしまったとしても「それは違うよ」と指摘はしません。自分で間違いを発見し修正できるような環境をつくることが大切です。そして修正できたとき、きちんとそれを見届けて「できたね」という声かけを忘れないようにもしています。そのような地道なやりとりを繰り返すことで、ほめられなくても自発的に出来るようになっていきます。
—— ディスカバリープロジェクトの強みはなんでしょうか。
「大島里山学校」の環境だと思っています。猪名川・大島の自然の中で様々な体験ができるというのが大きな特徴です。不登校のお子さんでスタッフにもきつい口調で接したり、集団の中にもうまく入れなかったお子さんが、週一回の里山学校に来て自然の中で過ごすと、これまで見たことがないような伸びやかな表情をみせたり、水鉄砲や鬼ごっこなどの集団の遊びに興味を持つようになりました。明らかに表情や行動がほぐれていく瞬間を見て、自然の影響力の大きさを実感しています。
—— 最後に、杉本さんがいつも大切にしていることを教えてください。
わたしが今ここで働かせていただいていることも、娘の存在のことも、すべてに感謝の気持ちを持っています。どんなことがあっても、これは良い方向に向かっているのだと信じています。一見悪いことのように思える出来事も、ひとつの現象として受け止めて、これは良い気づきを与えてくれたのだと前向きにとらえるようにしています。だからすべてに感謝しかないんです(笑)。